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神戸市立小学校の教員いじめ事件

事件の概要と加害行為

令和元年9月,神戸市内の市立小学校で教員間でのいじめ事件が発覚し,新聞やテレビで大きく報道され世間を騒がせました。

この事件は,主犯格の教員をはじめとする4名の加害者側教員が他の複数の教員に対しいじめや嫌がらせを行ったもので,「同じ職場で働く者に対して,職務上の地位や人間関係などの職場内の優位性を背景に業務の適正な範囲を超えて,精神的・肉体的苦痛を与える又は職場環境を悪化させる行為」というパワーハラスメントの概念に当てはまるものです。被害者側教員のうち1名は体調を崩し休職を余儀なくされており,行為内容の悪質さも相まって極めて重大なパワハラ案件といってよいでしょう。

令和2年2月,本件の調査委員会が神戸市教育委員会に調査報告書を提出しましたが,その中では125項目ものパワーハラスメントが認定されたとのことです。報告書で認定された具体的な行為については現時点では不明ですが,既に各種メディアにより,加害者側教員が被害者側教員に対し行ったパワハラ行為が詳細に報道されています。一部として,次のような行為が行われたとのことです。

①激辛カレーを目や顔面に塗りつけたり,無理矢理食べさせたりする ②熱湯の入ったやかんに顔を押しつける ③ロール紙の芯で尻をたたく ④関節技をかける ⑤ビール瓶を口に突っ込み無理矢理飲ませた上,瓶で頭をたたく ⑥「黙れ,偉そうに言うな」,「ボケ,カス」という暴言を吐く ⑦仕事の質問に対し「クズがしゃべるな」と遮る ⑧名前に「ゴミ」,「クズ」をつけて呼ぶ ⑨児童の前で被害者側教員の悪口を言う ⑩被害者側教員が担当する学級の児童に「学級をめちゃめちゃにしたれ」,「言うことをきかんでいい」,「男子全員ではめて居場所をなくせ」と言う ⑪児童に配るプリントと水を垂らす ⑫カバンの中に氷を入れる ⑬被害者側教員の車の中でトマトジュースをこぼす ⑭携帯電話を隠したり,ロックをかけて使えないようにしたりする

いずれも,教育現場で行われたとはにわかに信じられないほど悪質な行為ですが,これらの行為について,パワハラとしてどのように位置づけられるのか,また,どのような責任が生じるかといった法的観点から分析してみたいと思います。

パワーハラスメントの類型の当てはめ

①から⑭の行為は,感覚的には誰がどう見てもパワハラに当たりそうですが,厚労省の円卓会議による提言の類型に当てはめると,①から⑤は「身体的な攻撃」,⑥から⑨は「精神的な攻撃」,⑨から⑪は「過大な要求」のうちの「仕事の妨害」に分類できそうです。

これに対し,⑫から⑭までは,「仕事の妨害」に当たる場合もあるかもしれませんが,持ち物を汚したり隠したりといった嫌がらせであり,提言の6つの類型のいずれにも分類しがたいように思われます。円卓会議による提言でも,6つの類型はパワハラ行為を網羅しているものではなく,これらに分類できないもののパワハラに当たる行為がありうるとされていますが,このような物に対して行われる嫌がらせというのは,この6つの類型に当てはまらないパワハラ行為といえるでしょう。

加害者側教員に生じうる責任

パワハラ行為による法的責任は,大まかにいうと,重いものから順にⅰ)犯罪行為になるもの,ⅱ)民法上の不法行為に該当するもの,ⅲ)就業規則の違反となるもの,の3段階となります。

上記の行為については,文字の上だけでは判断が難しいところですが,いずれもⅱ)以上の責任は生じるものと思われます。ただし,ⅱ)に当たり損害賠償責任が発生するとしても,その金額は程度に応じて決まることになります。休職を余儀なくされた先生に対しては,逸失利益が損害に計上されますので,かなりの高額となる可能性もあります。

また,ⅰ)の犯罪行為に該当しそうなものとしては,①から⑤は暴行罪(被害者が怪我をしていれば傷害罪),①のうち,激辛カレーを無理矢理食べさせた点と,⑤のうち,ビールを無理矢理飲ませた点は強要罪,⑥から⑧は公然と行われていれば侮辱罪,⑨は名誉毀損罪,⑪から⑭は器物損壊罪に該当する可能性があります。

報道によると,令和2年3月,加害者側教員らは,暴行罪,強要罪で書類送検されたとのことです。既に懲戒免職になるなど社会的制裁を受けているため,起訴猶予等の寛大な処分を求める意見が付けられたようですが,もし起訴処分となった場合には,裁判の行方にも注目されるところです。

加害者教員は損害賠償責任を負わない?

ところで,本件は市立小学校の教育現場で起こったものであるため,民事上の損害賠償請求は,小学校を管理する公共団体である神戸市に対して,国家賠償法により損害賠償請求をすることになるものと思われます。そうすると,賠償責任を負うのは神戸市となり,原則として加害者ら個人は民事上の損害賠償責任を負わないことになります。

ただし,法律上,例外的に,公務員個人に故意又は重過失があった場合には,求償といって,国や公共団体が支払った分を請求できるものとされています。本件では,加害者側教員らに故意があったことは明らかですし,これだけ世間から厳しい声が寄せられているケースで,神戸市民の税金を使って賠償して幕引き,というのはいかにも収まりが悪いように思われます。一般論として,従来,公務員個人に対する求償は控えられていたようですが,近年は求償に及ぶ事例が増えてきているそうです。本件でも,神戸市が損害賠償をした場合には,加害者側教員らに対し求償する可能性は十分あるでしょう。

まとめ

本件で行われたパワハラは極めて悪質であり,その被害は大変痛ましいものです。被害に遭われた先生方は本当にお気の毒だと思いますが,一方で,パワハラ行為が多種多様であったことから,パワハラの該当性や生じうる責任について学ぶ事例としての価値はあるといえます。世間を騒がせたニュースとして知名度も高く,パワハラ防止のための啓発等に役立てたいところです。

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