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会社側も要注意!飲み会でのパワハラ・セクハラ

令和2年5月11日付日経新聞朝刊に,「新社会人のコンプラ入門」というシリーズ記事が掲載されており,今回の見出しには「飲み会 ハラスメント抵触も」とありました。この記事の中に, 「新人の場合,社内外の人からセクシュアルハラスメントやパワーハラスメントを受ける恐れが高いし,同期などへの加害者にもなり得る。」 として,各種ハラスメントの被害者・加害者となるリスクがあることについて注意を促すくだりがありました。

上記の記事は,タイトルのとおり,新社会人向けに,コンプライアンスの一環として,飲み会に関するハラスメント等のリスクや注意点をまとめたものですが,本稿では,会社・経営者側の視点から気をつけておきたい点について解説します。

事業主の措置義務の対象となるハラスメントに当たるか

会社は,職場におけるパワハラ,セクハラについて,法律上,これらを防止したり,事後に適切な対応をとったりする事業主としての措置義務を負っています。それでは,飲み会での各種ハラスメントも,事業主としての措置義務の対象となるのでしょうか。ハラスメント行為が飲み会の場で行われていることから,「職場における」パワハラ,セクハラといえるかが問題となります。 この点,事業主の措置義務について厚労省が公表している指針によると,パワハラについては,

「職場」とは,事業主が雇用する労働者が業務を遂行する場所を指し,当該労働者が通常就業している場所以外の場所であっても,当該労働者が業務を遂行する場所については,「職場」に含まれる。

令2厚労告5号

とされています。

また,セクハラについても「職場」の内容は上記と同じ記載となっており,これに加え,

例えば,取引先の事務所,取引先と打合せをするための飲食店,顧客の自宅等であっても,当該労働者が業務を遂行する場所であればこれに該当する。

平18厚労告615号

という具体例が示されています。

なお,この指針に関する厚労省の通達には,飲み会が「職場」に当たるかに関し,次のような記載があります。

勤務時間外の「宴会」等であっても,実質上職務の延長と考えられるものは職場に該当するが,その判断に当たっては,職務との関連性,参加者,参加が強制的か任意か等を考慮して個別に行うものであること

平18・10・11雇児発1011002号

これらの記載からすれば,飲み会が「職場」に当たるかどうかは,業務を遂行する場所といえるか,実質上職務の延長といえるか,という点がポイントとなりそうです。「重要な取引先との会合だから参加するように」と上司から指示されたようなケースでは,職務との関連性も強く,参加も強制されていたと評価されるため,「職場」に該当する可能性が高いものと思われます。これに対し,参加が任意とされているケースでは,「職場」に該当しない場合もあるでしょう。

「職場」に当たる飲み会でパワハラやセクハラが発生した場合には,会社としては,厚労省の指針に示されているとおり,事後の適切な対応と再発防止策を講じる義務が生じますので,注意したいところです。

パワハラに関する事業主の措置義務については,別稿「パワハラ防止の雇用管理上の措置義務に関する指針」をお読み下さい。

ハラスメントがあった場合に会社が使用者責任を負うか

飲み会で各種ハラスメントが発生し,それが民事上の不法行為にも該当する場合,会社にとって,直接の加害者だけでなく,会社も使用者責任として損害賠償義務を負うかどうかが重要な問題となります。

会社が雇用する従業員が不法行為責任を負う場合,会社は,従業員の行為が会社の事業の執行についてなされたと判断されれば,原則として使用者責任を負うことになります。飲み会での各種ハラスメント行為については,それが会社の事業の執行行為を契機とし,これと密接な関連を有すると認められるかどうかがポイントとなります。職務そのものだけでなく,これと密接な関連を有する行為であれば「事業の執行について」に当たると評価される点に注意が必要です。

この点,新入社員歓迎会の二次会で行われたセクハラ行為について,次のとおり判示して使用者責任を認めた裁判例があります。

本件行為は,勤務時間終了後に職場外の場所で行われたものではあるものの,原告ほか1名の新入社員歓迎会の二次会であったというのであるから,被告会社の業務に近接してその延長において行われたものと評価でき,被告会社の職務と密接な関連性があり,その事業の執行につき行われたと評価すべきである。

福岡地方裁判所判決・平成27年12月22日

この裁判例は,「勤務時間終了後に職場外の場所で行われたものではあるものの」と判示しているとおり,二次会自体は勤務時間外であることを明確にした上で,なお会社の職務と密接な関連性があると評価しています。

歓送迎会等のように,会社が主催して行う飲み会であれば,参加は強制せず勤務時間と評価されない場合でも,その席でパワハラやセクハラが行われると,会社も使用者責任を負う可能性があるということには是非とも留意したいところです。

まとめ

以上のとおり,参加が強制されず,職務遂行に当たらない飲み会でのセクハラ・パワハラについては,事業主の措置義務の対象にはならないものと考えられます。ただし,会社が主催して行う飲み会であれば,その席でのセクハラ・パワハラについて,会社が使用者責任として損害賠償義務を負う可能性はあるため,これを予防するための措置は必要といえるでしょう。

飲み会での各種ハラスメントについては,法律上要求される範囲よりも広く,就業規則等で予防のための措置をとっておかれることをお勧めします。さらに,会社が関与しない,完全に有志の飲み会についても,会社が損害賠償義務を負うかどうかにかかわらず,社員間の人間関係が悪化する等しないよう,セクハラやパワハラが行われないようにしたいところです。会社の生産性の向上という観点からも,ハラスメントのない,良好な職場環境を維持するための方策を積極的に講じていきましょう。

新型コロナウィルスの影響で,従来のような飲み会が行われるのは当分先のことになろうかと思われます。そこで,飲み会でのセクハラやパワハラの予防措置が十分でなかった会社の経営者・人事部門担当者の方におかれては,コロナ禍が収まり,飲み会が開催されるまでの間に,就業規則等の規程を整備・周知するなど,セクハラやパワハラの予防措置を検討されることをお勧めします。

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