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テレワーク時の新型ハラスメント“リモハラ”とは?

6月1日に全国で新型コロナウィルス関連の緊急事態宣言が解除されたこともあり,街の人出が戻ってきました。朝の通勤電車は宣言前と同じくらい混雑するようになったと思います。人との接触を削減するためのテレワークでしたが,これを期に,通勤時間やオフィスの床面積の削減といったメリットを享受するために,テレワークを継続する企業も相当数あるようです。

そんな中,同日付日経新聞朝刊に「テレワークで『リモハラ』懸念」の見出しの記事が掲載されました。リードは次のとおりです。

新型コロナウィルスへの対応で広がるテレワークに特有のハラスメントリスクを専門家が指摘している。文字だけの業務指示は強圧的な印象を与えやすく,在宅勤務で垣間見える私生活への言及は相手に不快感を与える恐れがある。「リモートハラスメント(リモハラ)」などと呼ばれることもあり,テレワーク定着に向けてルールやマナーの整備が求められる。

テレワークにより人との接触が減ることに伴い,パワハラやセクハラといったハラスメントの機会も少なくなるように思われますが,テレワークに独自のハラスメントが発生することが懸念されるようです。 そこで,本稿では,このような“リモハラ”がパワハラ等のハラスメントに該当するのか,法的な観点から解説します。

“リモハラ”の類型

上記日経新聞の記事によると,リモハラには,ⅰ)強圧的な印象を与える文字だけの業務指示,ⅱ)頻繁すぎる連絡や常時モニタリングを求めること,ⅲ)私生活への言及の3つの行為類型があるように思われます。そこで,これらがパワハラに該当するのか,会社として法的にどのような責任を負うのか等について,個別に検討します。

ⅰ)強圧的な印象を与える文字だけの業務指示

パワハラに該当するか

法的な意味でのパワハラに該当するかどうかは,いわゆるパワハラ防止法上のパワハラの定義「職場において行われる優越的な関係を背景とした言動であって,業務上必要かつ相当な範囲を超えたものによりその雇用する労働者の就業環境が害されること」に当てはまるかという問題となりますが,どのような行為がパワハラとなるかの分類(行為類型)に当てはめて考えると分かりやすいため,まず,この類型に当てはまるかを検討してみます。

パワハラの行為類型に当てはまるか

パワハラの行為類型としては,①暴行・傷害(身体的な攻撃),②脅迫・名誉棄損・侮辱・ひどい暴言(精神的な攻撃),③隔離・仲間外し・無視(人間関係からの切り離し),④業務上明らかに不要なことや遂行不可能なことの強制,仕事の妨害(過大な要求),⑤業務上の合理性なく,能力や経験とかけ離れた程度の低い仕事を命じることや仕事を与えないこと(過小な要求),⑥私的なことに過度に立ち入ること(個の侵害)の6つがあるとされています。詳細については別稿「パワーハラスメントの概念と類型」をお読み下さい。

これらの類型に「文字だけの業務指示」を当てはめるとすれば,②の精神的な攻撃に該当する可能性がありそうです。

テレワーク独自のパワハラとして考えると・・・

しかしながら,メールやチャットの内容それ自体が脅迫・名誉棄損その他人格否定的な内容であるとすれば,②の類型のパワハラに該当するのは当然のことであり,わざわざリモハラとして取り上げて論じる必要はありません。

「文字だけの業務指示」がテレワーク独自のパワハラとなり得るのは,対面での微妙なニュアンスが伝わらない,相手の反応により即時に修正できないといったコミュニケーション上の制約があるため,先鋭的,強圧的な印象を与えやすいという特性があるからです。そこで,テレワーク独自のハラスメントとされる行為は,「対面であれば問題ないが,文字だけだと不快感を与える業務指示」に限定されるべきかと思われます。

そうすると,このように限定された行為は,文字上は人格否定的な内容が含まれていないため,上記②の精神的な攻撃にも該当しないようにも思われます。 もっとも,上記①~⑥の類型も,あらゆるパワハラを網羅したものではないとされており,いずれにも分類されないパワハラもあり得るとされています。

そこで,上記のパワハラの行為類型に当てはまらないとしても,「文字だけの業務指示」が独自に法的な意味でのパワハラに当たるのか,上記のパワハラ防止法上のパワハラの定義に当たるかどうか,検討してみます。

パワハラ防止法上の定義に当てはまるか

在宅勤務であっても「職場」といえ,上司等から部下という関係であれば「優越的な関係を背景とした言動」ということもでき,相手が不快感をもったのであれば,「労働者の就業環境が害される」ということもできるでしょう。そうであれば,結局は「業務上必要かつ相当な範囲を超えたもの」といえるかどうかが問題となりそうです。

「対面であれば問題ないが,文字だけだと不快感を与える業務指示」については, 内容自体は問題ないことが前提であるため,業務を遂行する手段として不適切な行為といえるか,という観点から検討されることになります。これは,仕事や指示の内容,相手との関係といった事案毎の判断とならざるを得ませんが,対面での指示よりも強圧的な印象を与えやすいという特性からすれば,不適切と評価されるハードルは下がる可能性があります。

法的な問題点

パワハラ防止法上のパワハラに該当すると,同法上,事後的な対応等の雇用管理上の措置義務が生じることになります。 雇用管理上の措置義務の詳細については,別稿「パワハラ防止の雇用管理上の措置義務に関する指針」をお読み下さい。

また,民事上の損害賠償責任(使用者責任,安全配慮義務違反)により訴えられる可能性も理論上はありますが,賠償義務が認められるためには,パワハラとされる行為が,民事上違法と評価される必要があります。上記のとおり文字だけで人格否定となる場合は論外として,対面では問題ないものの,メールやチャット等では不快感を与えるという程度で,民事上の賠償責任が生じる場合というのは想定しにくいかと思われます。

ⅱ)頻繁すぎる連絡や常時モニタリングを求めること

パワハラに該当するか

このような行為は,程度にもよりますが,上記のパワハラの行為類型のうち,④の業務上明らかに不要なことの要求,仕事の妨害に当たり得るほか,常時モニタリングがプライバシーの侵害にもなる場合には,⑥の私的なことに過度に立ち入ることの類型に当たる可能性もあります。

連絡やある程度の監視が必要であることはもちろんですが,業務上適切な範囲を超えないか,注意が必要です。

法的な問題点

上記ⅰ)同様に,パワハラ防止法上のパワハラに該当すると,同法上の事後的な対応等の措置義務が生じることになります。

また,民事上の損害賠償責任については,上記ⅰ)と異なり,要求した内容の程度によっては,民事上違法と評価されることも十分あると思われますので注意が必要です。

ⅲ)私生活への言及

パワハラに該当するか

このような行為は,上記のパワハラの行為類型のうち,⑥私的なことに過度に立ち入ること(個の侵害)に該当する可能性があります。これも業務上適切な範囲を超えているか,という程度問題となり,言及する私生活の内容や,相手との関係等により事案毎の判断となります。

基本的には,カメラに自宅の様子が映りこんだとしても,職務に集中するのに不適切なものがあるため注意する等の事情がなければ,仕事には関係ないといえるでしょう。そうであれば,たまたまカメラに映った自宅の様子等については,言及しないのを原則的な対応とすべきといえそうです。

なお,この類型の行為については,言及する私生活の内容によってはセクハラに該当する可能性もあります。

法的な問題点

上記ⅰ)同様に,いわゆるパワハラ防止法上のパワハラに該当すると,同法上の事後的な対応等の措置義務が生じることになります。

また,民事上の損害賠償責任については,上記ⅰ)と異なり,言及した私生活上の内容や頻度,相手との関係等の事情によっては,民事上違法と評価されることも十分あると思われますので注意が必要です。

まとめ

テレワークは,新型コロナウィルスへの対応で急激に普及したことから,様々な面でルールやマナーの整備が追いついていないのが現状といえるでしょう。そのような状況下で,テレワーク独自のハラスメント問題として注目されている“リモハラ”は,法的な意味でもパワハラやセクハラといったハラスメントに該当する可能性があります。リモハラ防止のためには,従来のハラスメント予防策の周知・啓発の延長で対応するだけでなく,テレワークの運用に即してトラブルを想定した分かりやすい規程を整備したいところです。

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