紛争対応・予防の基礎知識

理論・体系 等

カスハラとは?定義と会社の法律的な責任

社内におけるパワハラ・セクハラについては,予防のための啓発・周知や事後に適切な対応ができる体制の構築といった対策に力を入れている会社が増えてきているようです。

しかしながら,社外の当事者との間で発生するハラスメントについては,十分な対策ができていない会社も多いのではないでしょうか。

別稿「派遣社員や出向者のパワハラと会社の責任」で,出向元・出向先,派遣元・派遣先といった自社以外の一定の関係にある会社間に当事者がまたがったパワハラ・セクハラ事案について,会社がどのような責任を負うか等を解説しましたが,現実には,このような関係にない社外の当事者との間でもハラスメント問題が発生することが珍しくありません。

これには,自社の社員が加害者になる場合と,被害者になる場合の2パターンがあります。前者の例として,一時期大きく報道されたものとして,就職活動の機会に乗じて就活生にセクハラ行為をする,いわゆる就活セクハラが挙げられます。また,後者については,昨今話題となっている,いわゆるカスタマーハラスメント(カスハラ)が挙げられます。

これらのうち就活セクハラについては別稿に譲り,本稿では,カスハラの定義,法律上の扱いと,会社の法律的な責任について解説します。

カスハラとは?

カスハラの定義

カスハラについては,法律等による明確な定義がありません。この点,改正労働施策総合推進法(いわゆるパワハラ防止法)に関する厚労省の指針の中で,会社が行うことが望ましい取組みの一つとして,「顧客等からの著しい迷惑行為(暴行,脅迫,ひどい暴言,著しく不当な要求等)」によりその雇用する労働者の職場環境が害されないよう配慮することが挙げられています。この括弧書の部分がカスハラについて記載されたものとされています。

このように,カスハラについては法律等による定義はないものの,例えば,新型コロナウイルスの蔓延に伴うマスクや消毒用アルコールの不足により,ドラッグストア等の小売店の店員が顧客から猛烈なクレームを受けている状況はカスハラの一種といえるでしょう。

カスハラは法律的な意味でのパワハラ・セクハラに当たるか

上記のように,カスハラとされる行為には明確な定義はありませんが,同じ会社の上司等から受けた場合にはパワハラやセクハラとなる行為はカスハラになるといえるでしょう。

それでは,カスハラは法律的な意味もパワハラやセクハラに当たり,これらを防止する措置義務を会社は負うのでしょうか。この点,男女雇用機会均等法や労働施策総合推進法の指針の記載からすれば,法的な意味でのパワハラやセクハラの行為者は内部者である社員や役員に限られ,顧客等の外部者はこれに当たりません。つまり,カスハラは,法律的な意味ではパワハラやセクハラには該当しないということです。実際,パワハラやセクハラの予防策を講じようとしても,監督権の及ばない社外の人間に周知・啓発等をするというのは現実的でなく,内部者の場合と同様に事業主に措置義務を課すことはできないでしょう。

パワハラ防止法に関する指針でも,カスハラによる被害の防止のための措置は,上記のとおり「望ましい」とされており,義務づけはされていません。しかしながら,会社は,次のとおりカスハラにより法的責任を負う可能性もあることから,これを放置してはいけません。

カスハラの法律的な責任

行為者個人の責任

カスハラ行為が民事上の不法行為に当たる場合には,損害賠償義務を負うことになります。また,悪質な場合には,強要罪,業務妨害罪等の犯罪に該当し,刑事責任も負うことになります。

会社の責任

会社としては,カスハラについて男女雇用機会均等法や労働施策総合推進法上の措置義務を負わないとしても,カスハラによって社員が被害を受けないようにしたり,被害を受けたことを相談された場合に適切に対応したりすることが,雇用契約上の安全配慮義務として求められます。これを怠ると,被害を受けた社員から損害賠償請求を受けるおそれがあります。

まとめ

以上のとおり,カスハラは現行の厚労省の指針によれば法律的な意味でのパワハラやセクハラには該当しないということになりますが,だからといって放置することは危険であり,積極的に対策をとる必要があります。会社が顧客に及ぼせる影響は限定的であり,顧客のニーズをつかむ契機となるクレームと不当な要求の線引きも難しいところですが,業種や業態に応じたマニュアルを整備する等してカスハラを防止しつつ,被害が発生してしまった場合には,社員をしっかりとケアし,職場環境を良好に保てるよう対策をとりたいところです。

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