紛争対応・予防の基礎知識

紛争予防

パワハラ等の加害者に対する懲戒処分は慎重に

加害者に対する措置は雇用管理上の義務

セクハラやマタハラをした加害者について,懲戒処分等の措置をすることは,事業主の雇用管理上の措置義務の一環として法律上の義務とされていましたが,令和2年6月1日から施行される改正労働施策総合推進法により,パワハラについても,同様の措置義務が事業主に課されることになりました。パワハラ等の行為の被害者をケアすることは当然として,加害者に対して厳正な措置をとることも,事業主には義務としても求められているのです。

そこで,本稿では,パワハラ等の加害者に対する懲戒処分等の措置について解説します。

新たな紛争の原因とならないように注意

パワハラ等の措置義務に限らず,懲戒処分は,処分を受けた社員と会社との間で紛争が起きる可能性があるため,慎重な運用が求められます。例えば,不祥事を起こした社員が懲戒解雇された,というケースはよくありそうですが,後にこの社員が懲戒解雇の無効を主張して会社に裁判を起こした場合には,会社の方が負けてしまうことも珍しくないのです。

パワハラ等の事案では,被害者に配慮するあまり,加害者に拙速な懲戒処分を行ってしまうと,今度は加害者から裁判を起こされることにもなりかねません。被害者からも裁判を起こされている場合には,1件のハラスメント事案を原因として,2件の裁判を同時に抱えることになってしまいます。

そこで,加害者に対して懲戒処分を行う場合には,次の点に留意しましょう。

懲戒処分を行う際の留意点

・就業規則等の根拠があるか

懲戒処分を行うには,就業規則等に懲戒の事由(○○を行ったら)と種別(××の処分とする)が定められている必要があります。このような根拠規定を欠く懲戒処分は無効とされます。

パワハラ等のハラスメントについては,雇用管理上の措置として,ハラスメント行為をしてはならず,加害者は厳正に対処する旨の方針と,対処の内容を就業規則等に定めて周知させることが,厚生労働省の指針により求められていますので,事業主の雇用管理上の措置義務の履行としても,就業規則等をしっかりと整備されることをお勧めします。

・事実確認等の手続をしっかりと行ったか

加害者が行ったパワハラ等の行為が,就業規則等に定められた懲戒事由に該当するという事実をしっかりと確認しましょう。事実確認の手続は,被害者のみならず,加害者からもその言い分を十分に聴取し,他の客観的な証拠との関係も考慮して公平に行われなければなりません。また,後に裁判になった場合に備え,手続の過程を記録化しておくことも重要です。このようなプロセスは,被害者側との紛争の解決にも有用です。

・懲戒事由と処分のバランスがとれているか

加害者が懲戒事由に該当するハラスメント行為をしていたとしても,その程度と比較してバランスがとれていないと,懲戒処分は無効となってしまいます。パワハラ等の行為の内容や,被害者の受けた被害の程度等の事情を総合的に考慮し,就業規則等に定められた懲戒の種類から適切な処分を選択しましょう。

悪質なパワハラ等でも,解雇を伴う処分には特に慎重な判断が必要

パワハラやセクハラが悪質な場合であっても,解雇を伴う処分については,後に裁判で争われることを考えると,選択には特に慎重な姿勢をもって臨む必要があります。被害者との関係等から,加害者を会社から排除すべきと判断される場合であっても,可能であれば,解雇を伴わない処分をした上で合意退職により退社させられないか,検討されることをお勧めします。

後に裁判となった場合,解雇は客観的合理的な理由があり社会通念上相当であったことを会社が立証しなければなりませんが,そのハードルは決して低くありません。特に,懲戒解雇については,退職金の不支給やその後の社員のキャリアに大きな傷がつくことから,有効とされる場合はごく限られています。そのため,加害者である社員のこれまでの功労を帳消しにするほどの,犯罪レベルの悪質なパワハラ等であることが明らかな場合以外には,選択しない方が無難といえます。

まとめ

以上のとおり,パワハラやセクハラの加害者に対する処分を厳正に行うことは,雇用管理上の措置義務としても事業主に求められていることですが,懲戒処分として行うには,慎重な対応が必要となります。上記の留意点を参考にしていただき,加害者に適切な処分を与えることで,紛争を予防しつつ,ハラスメントの抑止も図っていただければと思います。

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