紛争対応・予防の基礎知識

紛争予防

パワハラやセクハラを社内で解決するための対応とは?

パワハラやセクハラといったハラスメント問題は,発生から時間が経つほど被害が深刻になるのが通常です。そうすると,被害者本人だけでなく,会社も,多額の損害賠償請求責任を負う,社内の士気が下がりひいては業績にも影響するといった看過できないダメージを受けることになります。

そこで,ハラスメント問題を会社として早期に認知し,解決することが会社の危機管理の上でも極めて重要な課題となります。この点,ハラスメントを認知するための仕組みの構築について,別稿「社内にパワハラ相談窓口を設置し運用する際の留意点」にて解説しましたが,本稿では,認知した問題を会社内部で,つまり被害者が弁護士を代理人に立てたり,裁判所に訴えたりすることなく解決するための対応について解説します。

社内解決のメリット

手続にかかる時間的・金銭的コストの軽減

パワハラやセクハラといったハラスメント問題が紛争というレベルまで発展すると,被害者は弁護士に代理を依頼し,まずは交渉,それで解決できなければ裁判所へ訴えるという流れで手続が進んでいくのが通常です。この流れについては,別稿「ハラスメント紛争対応の流れその1~示談」「ハラスメント紛争対応の流れその2~労働審判」「ハラスメント紛争対応の流れその3~」で詳しく解説しています。

このように紛争となってしまった場合には,交渉段階であっても,被害者の弁護士に対抗するために会社側も弁護士を立てるのが望ましいといえます。さらに,裁判となった場合には,手続を適切に進めるために弁護士がほぼ不可欠となります。そうすると,被害者からの請求を退けられたとしても弁護士費用はかかることになりますし,弁護士に依頼した場合でも,全て丸投げというわけにはいかず,資料の提供や関係者の日程調整等,会社としても手間暇がかかります。

これに対し,社内で解決ができれば,基本的に弁護士費用はかからず,社内の委員会等の運用にかかる人件費以外にはコストは発生しません。

このように,パワハラやセクハラの問題を社内で対応することには,解決までにかかる手続のための時間的・金銭的コストを大きく削減できるというメリットがあります。

風評被害を抑えられる

パワハラやセクハラが原因で訴えられた場合には,裁判は公開の法廷で行われるため,ハラスメントの内容が世間に広く知られ得る状況となります。特に,有名企業ではニュースバリューがあるとして大きく報道される傾向にあり,パワハラやセクハラに対する世論が厳しくなっている昨今,会社に対する風評被害が発生するのは必至といえます。

これに対し,社内で解決ができれば,被害者側もわざわざ外部にハラスメントの内容を公表することはないのが通常です。さらに,和解文書に口外禁止条項を盛り込むことで,情報漏れのリスクをより低減することができます。

職場の士気を維持できる

パワハラやセクハラが発生すると,職場全体の士気が下がってしまうのが通常です。この点,ハラスメントを早期に認知し,社内で対応した場合には,被害者だけでなく,他の社員からも,ハラスメントにしっかりと対応してくれるという点で,会社に対する信頼感が得られますので,職場の士気を維持することができます。

パワハラ等の社内対応・解決が期待できるケース

パワハラやセクハラの問題を社内で対応・解決することが期待できるのは,①パワハラ等による被害が比較的軽い,②当事者双方が主張する事実関係に大きな隔たりがない,③当事者の双方とも退職していないという3つの条件に当てはまるケースといえます。どれか1つでも欠けると社内での対応ができないというわけではありませんが,3つ揃っている場合と比べて格段に難しくなるのが通常です。

以下,これらについて詳しく解説します。

①パワハラやセクハラによる損害が比較的軽い

パワハラやセクハラの被害者がうつ病にかかる等の深刻な損害を被っていないケースでは,被害者としても雇用の継続を望むため,会社との間で事を荒立てるよりは,穏便に済む解決方法を選択するのが通常です。

損害が軽微な場合には,賠償額も小さく,弁護士に依頼すると費用倒れになることや,被害の回復というよりは感情面での対立の解消が主たる目的であることが多いことからも,このようなケースでは社内での対応が適しているといえます。

②当事者双方が主張する事実関係に大きな隔たりがない

パワハラやセクハラの被害の有無や内容について,加害者側と被害者側とで主張する事実関係に大きな隔たりがない場合には,どのようなパワハラ行為・セクハラ行為があったのかを前提として,具体的な解決方針について話合いが進められますので,解決までの手数や時間が少なくなります。これに対し,双方が主張する事実関係が大きく食い違う場合には,当事者からの聴き取りだけでなく,目撃証言やメールの履歴といった証拠からパワハラやセクハラに関する事実認定をする必要があります。しかしながら,社内での対応で説得的な事実認定をすることは難しいのが通常である上,特にセクハラの事案では密室で行われることが多く,判断材料となるのが当事者の主張のみとなるため,事実認定は更に難しくなります。このようなケースでは,当事者双方が納得して話合いをすることができず,社内での対応になじまないため,裁判等の手続が必要になることが少なくありません。

③当事者双方とも退職していない

パワハラやセクハラの問題が表面化すると,被害者だけでなく,加害者側としても会社に居づらくなることから,自主的に退職することが少なくありません。社内でパワハラやセクハラ事案の対応をするには,会社が間に入り話合いをすることが必要であるため,加害者,被害者のいずれかが退職してしまうと,その機会が事実上設けられなくなってしまいます。特に,被害者が退職してしまった場合には,被害の程度や被害感情が深刻であることが多く,社内での対応は相極めて難しいでしょう。逆に,被害者が退職をしない場合には,穏便に解決しようとするインセンティブがはたらくのが通常であるため,社内での対応になじむといえます。

パワハラ・セクハラ問題の社内での対応の方法

ハラスメント問題を社内で解決するための方法は,大きく①加害者に書面を交付して注意する通告型と,②会社が当事者双方の間に入り協議を行う和解型の2つに分類できます。

①通告型

加害者に対して,パワハラやセクハラの申告があったことと,今後同様の行為に及ばないよう注意を促すこと,その他事案により必要な事項を記載した書面等を交付する方法です。

ハラスメントの被害が比較的軽微であり,被害者側からも,現時点でそれ以上の措置は望まないという納得が得られたケースではこの方法を選択するとよいでしょう。

この方法をとる場合,基本的には加害者に対して書面を交付するのみで手続は終了となるため,パワハラやセクハラの問題がこれで解決するよう,加害者に対し,申告した者を詮索することや,報復的な行為に及ばないこと等を注意することで実効性が高まるといえるでしょう。また,書面の交付までに加害者側からの聴取を行わない場合には,希望に応じて異議申立ての機会を与える等の配慮をしてバランスをとることも必要です。

②和解型

社内対応のための専門委員会等を設置し,被害者側と加害者側の間に入り,協議を進めながら和解的解決を図る方法です。

パワハラやセクハラに関する事情や,解決方針についての希望を聴取し,必要に応じて事実認定をし,妥当な解決案を策定するなど,専門的な判断が必要になることも少なくないため,弁護士等の専門家を関与させることも検討するとよいでしょう。特に,被害者側の意向として,会社に対する賠償請求がある場合には,会社も当事者となるため,公平の観点から,外部の第三者を間に入れるかたちとするのが望ましいといえます。

また,当事者間で解決についての合意が整った場合には,和解書等の文書を作ることになります。特に,事実関係に争いのあるケースでは,解決の内容だけでなく,認定した事実を記載した上,これに双方納得した旨の文言も盛り込んで署名・押印をさせることで,後に裁判等の手続で紛争が蒸し返されないようにしましょう。

まとめ

以上のとおり,社内での解決が見込めるのはパワハラやセクハラによる被害が比較的軽微なケースであるため,ハラスメント問題を早期に認知することが重要となります。そこで,社内での対応の方法は,パワハラやセクハラに関する相談窓口を設ける等,早期発見の仕組みと合わせて運用したいところです。この点に関し,別稿「社内にパワハラ相談窓口を設置し運用する際の留意点」をご参考にしていただければと思います。

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