紛争対応・予防の基礎知識

紛争対応

パワハラやセクハラの裁判で証人尋問に呼ばれたら

パワハラ・セクハラといったハラスメント紛争が裁判所を使った法的手続まで進んでしまった場合,訴訟か労働審判の手続がとられます。このうち,労働審判については,別稿「ハラスメント紛争で労働審判を申し立てられたら」で解説したとおり,会社の代表者やハラスメント行為の当事者といった関係者本人の出席が必要です。これに対し,訴訟については,弁護士に代理を依頼すると,期日に裁判所に出頭するのは代理人のみでよく,関係者の出頭は基本的に不要となります。ただし,証人尋問・当事者尋問の期日には,関係者本人の出席が出席し,裁判官や訴えてきた被害者側の弁護士の前で証言をする必要がありますので,念入りな準備が求められることになります。

訴訟の手続の概要,流れについては,別稿「ハラスメント紛争対応の流れその3~裁判」で簡単に解説していますが,本稿では,この尋問の手続について詳細に解説します。

尋問手続の流れ

出頭の確認

尋問期日の5分前くらいに法廷に出頭すると,書記官等の裁判所職員から,当日尋問を受ける当事者や証人に「出頭カード」という書面と,宣誓書が渡されます。出頭カードに氏名,生年月日等の必要事項を記載し,宣誓書には署名・押印することが求められます。

期日の時間になると裁判官が入廷しますので,その前にこれらの書類の記載を済ませます。

氏名等の確認

期日が始まると,若干の手続がある場合もありますが,その後,裁判官から,当日尋問を受ける当事者や証人は,証言台の後ろに並んで立つように求められます。その上で,裁判官から,各当事者,証人に対し,氏名や生年月日等が上記の出頭カードのとおりであるか尋ね,本人確認をされます。

宣誓

その後,裁判官から,各当事者,証人に対し,宣誓をするよう求められます。宣誓の前に,裁判官から,宣誓をした上で嘘の供述をすると,当事者本人であれば過料の制裁,証人であれば偽証罪という犯罪に該当する旨,注意事項等を説明されます。この宣誓は,当日尋問を受ける当事者や証人が全員同時に行うのが通常ですが,パワハラやセクハラの事案では,その加害者と被害者が近い距離で並んで立つことになりますので,当事者の意向も踏まえ,事前に裁判所と調整し,宣誓を別々に行うことも検討します。

尋問

尋問が始まる前に,証言する当事者や証人に対し,裁判官から注意事項が告知されます。内容としては,一問一答で答えることや,身振り手振りではなく,言葉で答えるようにすること等です。これらの点については後記「証言する際の心構え」で詳しく解説します。

尋問は,証人申請をした側からの主尋問,相手方からの反対尋問,場合により,再主尋問,再反対尋問等という順番で進み,裁判所からの補充尋問がされる場合もあります。

詳細は次のとおりです。

主尋問

証人申請をした側からの尋問です。証人申請をする際には,証人・当事者が事件とどのように関わっているか,事件に関しどのような事実を経験したのか,つまり,どのようなことを証言するかをまとめた陳述書を提出するのが通例となっています。陳述書は,自ら作成した体裁をとりますが,弁護士に依頼している場合は,弁護士が事情を聴取しながら作成し,証人・当事者が内容を確認して署名・押印するのが通常です。

そのため,尋問をする弁護士とは証言内容について打合せをしており,場合によっては尋問のリハーサルも行われます。そのため,証言をする当事者や証人としては,どのような内容の質問がされるか,また,どのように回答すべきかが分かっていますので,問いと答えはスムーズに進むのが通常です。ただ,答えを丸暗記すると却って不自然となり,信用性が低くなる場合もあります。証言は,自らの記憶に従ってされる必要がありますので,本来なら改めて暗記などをしなくても証言できるはずです。

ただ,人前で話すのが苦手な人等は,証言台に立つと緊張してしまい,打合せどおりに証言できないことも少なくありません。このような場合には,弁護士が質問を臨機応変に工夫し,軌道修正してもらえることも多いため,あまり神経質に証言内容を記憶する必要はなく,むしろ望ましくないといえるでしょう。

反対尋問

相手の弁護士から,主尋問で証言したことの信用性をチェックするために行われるものです。証言の信用性を崩すのが目的といってもよいでしょう。

そのため,敵対当事者であるということも相まって,かなりキツい質問がされることも少なくありません。また,弁護士によっては,証人・当事者をわざと怒らせて不用意な発言を引き出すために,あるいは,証人・当事者と敵対関係にある自らの依頼者の溜飲を下げさせるためのパフォーマンスとして,必要以上にキツい口調や無礼な態度で尋問をすることもあります。このような尋問に対しては,当方の弁護士が異議を述べることもありますが,裁判所からの印象も悪いとされていますので,相手の弁護士のペースにのまれて感情的になるのではなく,淡々と回答するとよいでしょう。

特に,パワハラやセクハラといったハラスメント関係の紛争では,被害者側から加害者本人に対して反対尋問が行われる際,上記のようなキツい質問がされる傾向がより顕著といえます。あまりにひどい内容であれば,当方の弁護士から異議が述べられることになります。

補充尋問

裁判官から,主尋問,反対尋問等の当事者からの尋問の後に,さらに知りたい事項について尋問されることがあります。裁判官が興味を示す事項のため,判決に影響を与える重要な事実であることが多いです。そのため,証人・当事者としてもより,一層注意深く回答すべきといえるでしょう。

事前に準備すること

持ち物

前述のとおり宣誓書に押印するため,印鑑を持参する必要があります。実印である必要はなく,認印で足りますが,浸透印,いわゆるシャチハタは使えない点に注意しましょう。

他は,当日のスケジュール等に応じてということになりますが,具体的には,他の当事者・証人が尋問を受けている間,待合室等の別室で待機する場合,待ち時間が長時間になりそうであれば,本や雑誌等があるとよいでしょう。

服装

特に決められている訳ではありませんが,公共の場にふさわしい落ち着いた服装が無難といえるでしょう。

気をつけるべき点・心構えなど

一問一答でなるべく簡潔に答える

裁判官から最初に注意を受けることもよくありますが,弁護士からの質問に対しては,簡潔に,聞かれたことのみ答えるようにしましょう。特に,答えた内容の理由まで説明したがる方が多いように思われますが,主尋問の場合には,まず問いに対する答えを回答し,その理由も証言する必要があれば,続く質問で「なぜそうしたのですか?」等,理由を質問させ,それに対する回答として説明するよう,弁護士と段取りをしておくとよいでしょう。

また,反対尋問の際には,質問に対する回答だけだといかにも不自然で,理由の説明までしたくなることがより多くなろうかと思います。そのような場合には,理由まで説明をしだすと,相手の弁護士から遮られるようなやりとりになることが少なくありません。このような場合には,再主尋問といって,反対尋問の内容に関し,当方の弁護士から再度質問される機会がありますので,その際に理由を説明するとよいでしょう。上記のように相手の弁護士に遮られたとしても,当方の弁護士に再主尋問をしてほしいというメッセージになりますので(通常の能力のある弁護士であれば,反対尋問のやりとりだけでも再主尋問の必要性に気付くと思いますが),発言して損はありません。

身振り手振りを使わない

証言内容は,速記等により文字で記録され,尋問調書としてまとめられます。そのため,証言の内容は,身振り手振りではなく,全て言葉で表現される必要があります。大きさを表現する場合にも,両手を広げて「これくらい」と言ったりすることがありますが,これも「1.5メートルくらい」等と表現するようにします。はい,いいえで答えられる質問に対しても,頷いたり,首を振ったりするのではなく,はい,いいえ,と返事をすることが求められます。

主尋問で,このようにゼスチャーを使ってしまいがちな答えがある場合には,予め弁護士と相談し,どのような言葉で言い換えて答えるのが適切か,打合せをしておくとよいでしょう。

ハラスメント紛争特有の問題

目撃者等の証人申請をすべきか

ハラスメント紛争の裁判では,パワハラやセクハラといったハラスメント行為を見たり聞いたりした同僚等が証人として申請されることがしばしばあります。在職中であれば会社側の証人となるのが通常です。離職後であれば被害者側の証人となることもあります。

このような目撃者等の証人は,中立的な視点から,つまりどちらの当事者にも肩入れしないように証言をすることが,証言の信用性を高めるために重要といえます。そうすると,会社側の証人となる場合でも,会社や加害者に不利な証言をせざるを得ないこともあるため,偽証をするのは論外として,証言内容についてはより入念に打合せをしておくべきといえます。予測される反対尋問も考慮した上で,証人申請するのが総合的にみて会社にとって有利かどうか,慎重に検討すべき場合もあるでしょう。

パワハラ・セクハラ等の加害者が気をつけるべきこと

ハラスメント紛争の裁判では,パワハラやセクハラ行為を行った加害者本人も,会社とともに訴えられることのほうが多いでしょう。ハラスメント行為の有無,態様に争いがある場合には特に,感情的にならず,冷静さを保ち,証言内容に気をつけたいところです。この点,ハラスメントの加害者がしがちな,裁判所の心証を悪くする証言については,別稿「会社・行為者側の“マズい”反論」にまとめていますので,こちらもご一読いただければと思います。

まとめ

以上のとおり,当事者・証人尋問には気をつけるべき点が多く,しかも,証言する当事者・証人は裁判の手続や法廷という場所自体にも不慣れなのが通常であるため,証言内容だけでなく,本番で上がったり,取り乱したりしないようなコンディションの管理までも気を配る必要があるといえます。さらに,パワハラやセクハラといったハラスメント紛争では,当事者間の感情的な対立も根深いケースが多く,尋問を成功させるための準備はより一層入念にしておくべきといえるでしょう。そのためにも,会社が訴えられた場合には,ハラスメント紛争に精通した弁護士に訴訟代理を依頼されることをお勧めします。

 

 

PAGE TOP