紛争対応・予防の基礎知識

紛争予防

パワハラ等で休職中の社員の対応①~給与の支払い

パワハラやセクハラを受けた社員が,うつ病等に罹患してしまい,療養のため会社を休まざるを得なくなることがあります。このような場合,就業規則等で定められている休職制度(傷病休職)を適用して療養させる会社が多いのではないでしょうか。これによりうつ病等が回復して無事復職できれば問題ありませんが,長期間にわたり療養したにもかかわらず復職できない場合等,会社として扱いに困ることもあろうかと思われます。

そこで,本稿では,パワハラ等によりメンタルに不調をきたした社員の対応のうち,休職制度の適用と,休職中の給与の扱いについて,会社として留意すべき事項を解説します。

休職中に給与を支払う必要があるか

休職に関する規定を確認

休職制度は,特に労基法等の法律に規定があるわけではなく,各会社が就業規則等により設けているものです。そのため,休職制度を適用して社員を療養させようとする際には,自社の休職に関する規定を参照し,給与や手当等を支払う必要があるかを確認します。

休職制度が適用できるケースか確認

休職制度は,社員が病気や怪我等で勤務ができない,つまり労務の提供ができない場合に適用できるものです。社員がうつ病等に罹患しても,直ちに労務の提供ができなくなったといえない場合もあります。例えば,うつ病の程度が軽く,病気になる前と同じ仕事をするのは難しくても,より軽微な作業であれば可能である,という場合です。このような場合でも,労務が提供できないとして,休職に関する規定を形式的に適用できるのでしょうか。特に,休職中は完全に無給と扱える規程があるケースで,これを形式的に適用して給与を全く支払わないという扱いが許されるかどうかについては,慎重に判断しなければなりません。労務の適用が可能であったにもかかわらず,会社の判断で休職させたという場合には,法律上,会社が給与を支払う義務があったと扱われるからです。

この点,労働者が現に就業を命じられた特定の業務について労務の提供が完全にはできないとしても,労働者の能力等や企業の規模等の事情から,その労働者を配置する現実的可能性のある他の業務について労務の提供をすることができ,かつ,その提供を申し出ているならば,労務の提供があったとする判例があります。

病気の原因がパワハラやセクハラだと主張されたら要注意

特に注意を要するのは,メンタルに不調をきたした社員から,病気の原因がパワハラ・セクハラ等のハラスメントを受けたことにあると主張された場合です。うつ病等の原因がパワハラ等にある,つまり,業務上の疾病ということになれば,会社としては,労基法上,平均賃金の6割の休業補償等をしなければなりません。この場合,労災認定されて保険給付が行われると,会社としての補償義務はなくなります。そこで,うつ病等に罹患した社員が,上記のような主張する場合には,労災申請をさせた方が良いケースもあります。このようなケースで会社が一方的に休職制度を適用すると,社員から上記の休業補償を求めて訴えられるおそれがあるからです。裁判で負けた場合には,弁護士費用だけでなく,賠償金の遅延損害金も含めて多額の金額を支払うことになってしまいます。

まとめ

以上のとおり,社員がうつ病等にかかり仕事ができなくなった原因がパワハラやセクハラであることが明らかな場合には,会社としても労災申請に積極的に協力すべきといえます。これに対し,原因がパワハラ等でないか,他の私的な事情と相まって微妙であるような場合には,会社の休職制度の適用を検討し,就業規則等の定めに従い給与や手当を支払うという対応となります。

休職は,社員が回復し,仕事に復帰することを前提とする制度であるため,上記のように労災申請するか,休職制度を適用するかといった方針の他,パワハラ等の再発防止の措置も十分に行い,復帰後の職場環境が良好になるよう努めるようにしましょう。さらに,これらの点について,病気になった社員に丁寧に説明し,了解を得ることで,会社が訴えられるなどのトラブルを防止したいところです。

 

 

PAGE TOP