紛争対応・予防の基礎知識

理論・体系 等

パワハラの法律的な責任とそのレベル

パワハラの程度により法律的な責任が異なる

別稿パワーハラスメントの概念と類型パワーハラスメントの構成要素で解説したとおり,パワハラに該当しうる行為は様々ですが,その程度にも幅があります。業務上必要な行為を少しだけやり過ぎてしまったものから,犯罪レベルのものまで,パワハラといえる行為の中でも軽いものから重いものまであるということです。

そして,当然ながら,行為者や事業主である会社が負うことになる法律的な責任も,パワハラの程度の軽重により異なります。そこで,企業として,パワハラの程度によってどのような法律的責任を負い,不利益を被ることになるのかを知っておくことは,パワハラ関連の紛争の予防だけでなく,紛争が起こってしまった場合に,どのように解決を図るのかの判断材料にもなるという点で有益です。

本稿では,パワハラの程度に応じて行為者や会社が負うことになる法律的な責任のレベルについて解説します。

大きく分けて3段階

パワハラに当たる行為による法律的責任は,大きく分類すると,重いものから順に,①犯罪行為になるもの,②民法上の不法行為に該当するもの,③就業規則の違反となるもの,の3段階になります。これらの相互関係は,①に該当すれば,②,③にも該当するというように重なり合うものであり,③に該当する行為の中には②も含み,さらにその内側に①を含むという,ベン図の包含関係になっています。①犯罪行為に当たるパワハラは,②不法行為にも当たり民事上は損害賠償責任の原因ともなり,③就業規則等により懲戒の対象にもなるという関係です。ただし,その境界線は必ずしも明確ではないという点には注意が必要です。

以下,これらについて具体的に解説します。

①犯罪行為に該当するもの

刑法上の暴行罪,傷害罪,脅迫罪,名誉毀損罪等の犯罪が成立するレベルの行為です。厚労省の円卓会議による提言の類型のうち,「暴行・傷害(身体的な攻撃)」,「脅迫・名誉棄損・侮辱・ひどい暴言(精神的な攻撃)」の中でも程度の甚だしいものがこれに該当します。

裁判例でも,タバコの火を押しつける等の行為が認定されているものがあり,民事上の不法行為として損害賠償責任が認められていますが,刑法上も傷害罪が成立する可能性が十分あります。

神戸市立小学校のいじめ・パワハラ事案で,教師が同僚の教師に激辛カレーを無理矢理食べさせたり,顔面に塗りつけたりした行為は大きく報道され世間を騒がせましたが,この行為はまさに暴行罪,傷害罪が成立しうるパワハラといえます。

このレベルのパワハラについては,犯罪となるため,加害者は逮捕されたり,起訴されて有罪となり前科がつくなどの刑事上の責任を負うことになる他,報道されることにより企業にとっても甚大な風評被害が生じるという,法律的責任を超えた不利益が生じるおそれがあります。

②民法上の不法行為に該当するもの

刑法等に規定されている犯罪行為には当たらないものの,被害者の権利又は法律上保護されるべき利益を侵害する行為です。

嫌がらせなどの業務上の必要性とは無関係な動機により,執拗に叱責する等して,被害者が精神疾患に罹患したような,重大なパワハラのケースでは,不法行為が成立し,治療費や,就労できなくなった分の逸失利益等の財産的損害のほか,精神的損害の賠償として慰謝料請求権も認められることになります。これらの賠償責任を負うのは加害者だけはありません。会社としても,使用者責任や,パワハラを放置したことによる安全配慮義務・職場環境配慮義務違反を原因として責任を負うことになるおそれがあります。

③就業規則等の違反となるもの

①のように犯罪には該当せず,②のように被害者の権利又は法律上の利益が侵害されたとまではいえないような行為であっても,就業規則等により,企業秩序に違反するような行為は禁止され,懲戒等のペナルティの対象とされているのが通常です。

このレベルのパワハラでは,口頭での注意や,懲戒処分としても譴責等が選択されるのが通常ですが,①や②のレベルのパワハラを行った社員に対しては,より重い処分を行うかどうか検討することになります。

紛争予防・対応との関係

パワハラ関連の紛争の典型は,被害者が弁護士を代理人に立てて会社や加害者個人に対し損害賠償を請求するというケースです。そのため,会社として法律的責任を負うかどうかは,②以上のレベルに該当するかという観点から判断することになります。例えば,加害者がパワハラに当たる行為を行っていたとしても,それが権利侵害を伴うとまでいえるのか,いえないのであれば,最終的に裁判になっても請求は棄却されることが見込まれるため,強気の交渉をしてみようという方針が立てられます。

紛争予防の場面では,パワハラ行為を認知した場合,どのレベルに該当するのかを確認し,②以上であれば紛争に発展する可能性が高いといえるため,被害者に対し,緊急かつ手厚い対応が必要となります。これに対し,③のレベルであれば,上記のように加害者に対し就業規則上の懲戒処分等を行うことで再発防止を図る程度で足りる場合もあります。

まとめ

以上のとおり,パワハラの程度によって生じる法律的責任のレベルが異なるため,パワハラを認知した場合,どのような法律的責任を負うことになるのかを意識することで,紛争の予防や対応にメリハリが出て,必要十分で適切な対応がしやすくなります。

ただし,SNS等により個人の情報発信が容易になっている今日では,法律的責任のレベルにかかわらず,風評被害のリスクには気を配っておく必要があります。パワハラがあったとしても③のレベルに留まるため,法律的責任が生じないからといって,軽視できるものではないことに留意すべきでしょう。

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