紛争対応・予防の基礎知識

理論・体系 等

派遣社員や出向者のパワハラと会社の責任

出向や労働者派遣により,別の会社に所属する社員が同じ職場で仕事をすることになります。所属する会社は違っても,同じ職場で人間関係が形成される以上,出向者と出向先の社員の間,派遣社員と派遣先の社員との間でパワハラやセクハラといったハラスメントが発生する可能性はあります。

このような場合,加害者個人が被害者に対し不法行為責任を負うことは,同じ会社内の当事者間で起こるハラスメントの事例と同様です。しかしながら,出向や派遣により被害者と加害者が所属する会社が異なる場合には,出向先と出向元,派遣先と派遣元という2つの会社が関係することから,いずれの会社がどのような責任を負うかが問題となります。

そこで,本稿では,このように出向者や派遣社員がパワハラやセクハラの被害者となった場合,加害者となった場合に,出向元・出向先,派遣元・派遣先の各会社がどのような責任を負うのかについて,被害者が会社を訴える場合に,どのような請求ができるのかという切り口から解説します。

なお,いずれの場合にも,被害者が加害者個人に対して不法行為に基づく損害賠償請求ができる点は同様です。

出向者が当事者となる場合

出向者が被害者となる場合

A社に所属する社員Bが,C社に出向した場合に,C社に所属する社員Dからハラスメント行為を受けた。

Bは使用者責任に基づきC社に対して損害賠償請求することができる他,A社だけでなく,C社との関係でも出向により労働契約関係にあるため,実際に仕事をしているC社に対し,職場環境配慮義務違反に基づく損害賠償請求ができる可能性もあります。

他方,BはA社との間でも労働契約関係がありますので,出向先であるC社でパワハラを受けた旨A社に相談したにもかかわらず,C社に対し是正措置を求める等の対応をしなかった場合には,職場環境配慮義務違反に基づき損害賠償請求できる可能性があります。

出向者が加害者となる場合

A社に所属する社員Bが,C社に出向した場合に,C社に所属する社員Dにハラスメント行為をした。

Dは,C社で仕事をしているため,職場環境配慮義務違反に基づく損害賠償請求ができる可能性があります。

それでは,Dが使用者責任に基づく損害賠償請求をする場合,A社とC社のいずれを相手にすべきでしょうか。出向者は,出向先と出向元の両方と労働契約関係にありますので,上記のケースは,出向先のC社,出向元のD社のいずれもが加害者Bの使用者に当たりそうです。そこで,どちらに対し使用者責任を追及すべきかが問題となります。

この点,「使用関係の存否については,当該事業について使用者と被用者との間に実質上の指揮監督関係が存在するか否かを考慮して判断すべきものである」とした上で,出向者が出向元から日常の業務の執行について指示を受けることはなく,出向先が出向者に対する業務命令権及び配転命令権を有していたこと等の事情から,出向元に指揮監督関係を認めることができず,出向元の使用者責任を否定した裁判例があります(横浜セクシュアルハラスメント事件・東京高等裁判所平成9年11月20日判決)。なお,この裁判例は,セクハラ行為があったかどうかの認定で第一審と控訴審の判断が逆転しており,別稿「セクハラ事実認定の難しさが分かる裁判例」にて紹介した裁判例と同様に,セクハラの被害者の行動について偏った社会通念が存在し,これに基づいて被害者の供述の信用性を判断するのは危険であることが分かるという点でも注目されます。

派遣社員が当事者となる場合

派遣社員が被害者となる場合

派遣元のA社に所属するBが,C社に派遣された場合に,C社に所属する社員Dからハラスメント行為を受けた。

Bは,Dの使用者であるC社に対しても使用者責任に基づき損害賠償請求することができますが,出向の場合と異なり,C社との間では労働契約関係にありませんので,契約責任としての職場環境配慮義務違反に基づく損害賠償請求はできません。ただし,派遣先事業主は,いわゆる労働者派遣法により,派遣労働者を雇用する事業主とみなされ,セクハラ,マタハラが発生した場合に適切な措置をとる義務を負います。この義務を履行しているかどうかは,派遣先会社が独自に不法行為責任を負う可能性に影響することになります。法改正により,事業主にはパワハラが発生した場合の措置義務も課されることになりましたが,これに伴い,労働者派遣法も改正され,パワハラが発生した場合にも,派遣先事業主は派遣労働者を雇用する事業主とみなされ,適切な事後対応等の措置義務を負うことになります。

パワハラに関する措置義務については別稿「令和2年6月施行・改正労働施策総合推進法(パワハラ防止法)について」「パワハラ防止の雇用管理上の措置義務に関する指針」をお読みください。

それでは,Bは,派遣元であるA社に対し,損害賠償請求をすることができるでしょうか。Bは,A社との関係では労働契約関係にありますので,A社は職場環境配慮義務を負うことになりますが,実際にBが就業するのは派遣先であるため,A社にどの程度の義務があるのかが問題となります。

この点,派遣社員がセクハラの被害を受け,派遣先だけでなく派遣元にも損害賠償を請求したという事案で,派遣元の責任を認めた裁判例(東レエンタープライズ事件・大阪高等裁判所平成25年12月20日判決)は,派遣元は,派遣先がセクハラの予防や発生したときの適切な対処をすべき義務を遵守し,適正な派遣就業が行われるよう,派遣先との連絡体制の確立,関係法令の関係者への周知等の適切な配慮をすべき義務がある,とした上で,派遣元には①セクハラ防止義務,②セクハラ救済義務,③解雇回避義務,④二次被害防止義務があるとしました。結論としては,派遣元は,セクハラの被害を受けたと感じた場合には派遣元責任者に相談すべきことや苦情処理の申出先を周知していたこと,二次的なセクハラ被害の申告があれば対応可能な状況を作っていたこと等から,①及び④の義務違反はないとされましたが,当初のセクハラ申告に対し何ら対応しなかったこと,派遣先からの中途解約の通知に対し,一度抗議しただけで,やむを得ないこととして容認したこと等から,②及び③の義務違反があり,派遣元に対する損害賠償請求が認められました。

派遣社員が加害者となる場合

派遣元のA社に所属するBが,C社に派遣された場合に,C社に所属する社員Dにハラスメント行為をした。

派遣社員が派遣先の社員にハラスメント行為をするという事例は珍しいかも知れません。派遣社員が上司になるという例はほとんどないと思われますので,パワハラは想定しにくく,不利益取扱いができる立場にも通常ないためマタハラも想定しにくいところですが,セクハラが行われる可能性はあるでしょう。

Dは,A社に対して,使用者責任に基づく損害賠償請求をすることができます。

Dだけでなく,派遣先のC社としても,派遣元のA社に対して,派遣契約の債務不履行に基づく損害賠償請求,使用者責任に基づく損害賠償請求ができる可能性もあるでしょう。

C社の職場環境配慮義務違反があれば,Dは,C社に対して同義務違反に基づく損害賠償請求をすることになります。

まとめ

以上のとおり,出向者や派遣労働者がパワハラやセクハラの当事者となった場合,誰が被害者,加害者になるのかによって法律関係が異なるため,場合毎に整理して考える必要があります。その上で,自社としてどのような理屈でどのような責任を負うリスクがあるのか,また,そのリスクを抑えるためにどのような手当が必要となるのか,本稿を参考に検討していただければと思います。

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