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男性が女性加害者を相手取りセクハラの被害を訴えた裁判例

別稿「男性もセクハラの被害者になる?セクハラ事例の具体例を解説」にて,男性に対するセクハラについて解説しましたが,女性が加害者,男性が被害者となるセクハラは,女性が被害者となる事例と比較して,認知される件数が圧倒的に少なく,公刊されている裁判例もほとんどありません。本稿では,珍しい事例として,第一審では女性の男性に対するセクハラ行為が認められたものの,控訴審で判断が逆転した裁判例(日本郵政公社(近畿郵政局)事件・大阪高等裁判所平成17年6月7日判決)を紹介します。

事案の概要

郵政民営化前の郵便局に郵便課外務職員として勤務していたX(男性)が,同郵便局の総務課課長代理として勤務していたY1(女性)からセクハラを受けた上,Xが上司等に救済申立てをしたにもかかわらず適切な対応をとられなかったこと等の二次セクハラを受けたとして,Y1に対して不法行為に基づき,Y2(国,後に日本郵政公社)に対して国家賠償法第1条1項又は債務不履行に基づき,損害賠償を求めたもの。

争点としては主に①Y1の言動が違法なセクハラ行為といえるか,②救済申立後の上司等の対応が,違法な二次的セクハラといえるか,の2点ですが,本稿では①について解説します。

第一審は,Y1のセクハラ行為と適切な対応をとならなったことを認定し,慰謝料及び弁護士費用の支払いをY2に命じましたが,Y1に対する請求は,公務員個人は責任を負わないとして棄却しました。

この判決に対し,Y2が控訴したところ,控訴審は,Y1のセクハラ行為を認めず,Xの請求を棄却しました。

各当事者の主張と控訴審の判断は次のとおりです。

当事者間に争いのない事実

Xが,1時間の有休を取得して,午後4時頃,郵便局庁舎内の男性職員用の浴室にいた時,Y1は,ノックをしないで浴室の扉を開け,いったん扉を閉めた後,再び扉を開けて,浴室の脱衣室内に立っていたXに話しかけた。

当事者間に争いのある事実

Xの主張

Xは,浴室内の脱衣室において,全裸のまま体を乾かしていた。その際,Xは,浴室の扉を閉め,その扉に「使用中」の表示をしており,浴室が使用されていることは,浴室内の電灯の光や扇風機の音等により外からでも明らかであった。それにもかかわらずY1はノックをしないで浴室の扉を開けて浴室内に足を踏み入れ,全裸のXと目を合わせるとすぐに扉を閉めた。しかし,Y1は,Xが着衣する間も与えずに,再度,浴室の扉を開け,浴室内に入ると扉を閉め,Xに近づき,「ねえ,ねえ何をしているの」「ねえ,お風呂に入っているの」などと話しかけた。

Y2の主張

Y1は,郵便局の総務課課長代理としての管理職の職務として,防犯パトロールのため浴室内に人がいるとは考えず,ノックをしないで浴室内の扉を少し開けた。その際,Y1は,浴室内の電灯が点灯され,石けんのにおいがすることに気がつき,浴室が使用されているかも知れないと考えて扉をいったん閉めた。Y1は,浴室の扉の表示が「空室」となっていることを確認した上で,勤務時間中に浴室が職員によって使用されたことを疑い,ノックをした上で再度扉を開けた。Y1は,2度目に浴室の扉を開けた際に,Xが私服を着用して脱衣室内にいることを認めた。そこで,Y1は,Xが勤務時間中に職務を怠って入浴していることを疑い,なぜ風呂に入っているのかを問いかけたが,XはY1の方を振り返ることもせず,返事もしなかった。そのため,Y1は,Xの勤務時間を自ら確認するため,郵便課の事務室に行き,郵便課長にXが浴室を使用していたことを報告し,Xの勤務時間を確認した。Y1は,郵便課長からXが1時間の有休を取得し,勤務時間外であることを確認した上で,総務課の事務室に戻り,総務課長にXが浴室を使用していたが勤務時間外であることを確認したと報告した。

裁判所の判断

裁判所は,Xの主張を裏付ける証拠は,Xが作成した書面とXの供述のみであり,他に目撃者のいない中で,当事者であるXとY1の主張する内容が全く異なっているため,Xの書面や供述について,その内容や,Y1の主張内容に沿った証拠との比較検討,前後の事情との整合性,その他を慎重に検討して,信用性を吟味することが重要であるとした上で,Xの主張は不自然であり,採用できないと判断しました。その理由の一部をまとめると次のとおりです。

Y1がノックをせずに浴室の扉を開けた経緯について

女性であるY1が男性用浴室内に人がいることを認識しながら,あえてノックもしないで扉を開けたというのは不自然である。これまで防犯パトロールをしたときに浴室が使用されていたことはなく,浴室内に人がいるとは考えないで,ノックをせずに扉を開けたというY1の供述の方がむしろ自然である。

Y1が浴室内でXに話しかけた経緯について

女性であるY1がXに近づいて話しかける間,男性であるXがタオルを手にしていたにもかかわらず,体を隠すような行動をとならかったというのは極めて不自然である。Y1は,Xが勤務時間内に浴室を使用したことを疑い,なぜ風呂に入っているのかを問いただし,返事が得られないため,郵便課長に報告してXの勤務時間を確認するとともに,同様の報告を総務課長にもしている。Y1の行動は,職務として浴室内を確認し,通常の勤務時間中に浴室内にいたY1の勤務時間を確認しようとした点で一貫した行動をとっていると評価できる。したがって,この目的以外に,Y1が性的な意図をもって,浴室内に全裸でいたXに対し,ことさら近づいて話しかけたかのようなXの供述は極めて不自然である。

その上で,次のとおり判示して,Y1の言動が違法なセクシュアル・ハラスメントに当たらないことは明らかである旨判断しました。

Y1は,労務や庁舎管理の責任を有する総務課の課長代理として,防犯パトロールの一環として本件浴室の状況を確認するために扉を開けたものであり,その際,浴室内に人がいるとは考えなかったため,ノックをしないで明けたにすぎない。また,2回目に扉を開けた際も,通常の勤務時間中に浴室が使用された形跡が認められたことから,服務管理の観点から,再度,浴室の状況を確認しようとしたものであって,その際には,本件浴室の扉の表示が「空室」となっていることを確認し,ノックをした上で扉を開けている。また,その際,浴室内でY1がXに対してとった行動も,勤務時間内かどうかを確認するために話しかけたにすぎず,目的も正当であり,そのために必要な範囲の質問をしたにすぎない。

たしかに,職務の一環であったとはいえ,女性であるY1が,男性用浴室の扉をノックもしないで開けたことは,礼儀に反する不用意な行動であるといえる。浴室内に人がいないと考えていたとしても,相当であるとはいえないであろう。また,そのときの言葉遣いに必ずしも適切でない部分があった可能性がなくはない(ただし,Xがいうようなものであったか否かまでは認定できない。)。

しかし,上記認定によれば,Y1の行為は,職務上の正当な目的のために,その目的に沿って必要な範囲で,かつ,基本的には相当な方法において行われた行為であるというべきであって,これを国家賠償法上違法であるとか,雇用契約上の義務違反といえるセクシュアル・ハラスメントに当たるというような評価をすることはできない。

本件においては,たまたまXが本件浴室内にいたため,Y1の行為の礼儀に反する側面や言葉遣いによって不愉快な思いをさせたことを否定できないとしても,上記のとおり,そのことから直ちに,Y1の行為を違法であるとすることはできない。

コメント

別稿「セクハラ事実認定の難しさが分かる裁判例」で紹介したとおり,セクハラは密室で行われ,他に目撃証言等がないため,行為者・被害者の供述の信用性の比較という判断枠組みになる場合が多いといえます。本件でも,第一審と控訴審で判断が逆転しているとおり,事実認定の難しいケースだったといえます。行為者と被害者の性別が逆なら判断が変わっていた可能性もありそうですが,Y1が総務課長等の第三者に報告したことについては証言があり,これと合致した一貫した行動をY1がとっていたと評価された点は,Y1の供述の信用性を高めるのに大きな役割を果たしたように思われます。

また,上記引用部分のうち,「たしかに,職務の一環であったとはいえ・・・」以下の部分に判示されているとおり,違法なセクハラに当たらないとしても,Y1にも礼儀に反する不用意な行動があるとされており,Y1の言動は,違法とはいえないレベルのセクハラに該当する可能性は十分あるといえます。このレベルのセクハラについても,会社としては,均等法上の事業主の措置義務として防止する必要があります。

まとめ

本稿にて解説した裁判例では,結局のところ控訴審で違法と評価できる程度のセクハラ行為は認められませんでしたが,裁判所としても不相当な行為である旨判示しているとおり,このレベルのセクハラについても防止していくよう取り組む必要があるといえます。

こうした取り組みは,セクハラの被害者から会社が訴えられる等,紛争に発展すること自体を防ぐことにも貢献しますので,改めて周知・啓発を徹底したいところです。

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