マタハラに関し会社が気をつけるべきことのうち,別稿「マタハラとは?事業主の不利益取扱いの解説と具体例」にて,男女雇用機会均等法(以下「均等法」といいます。)により,妊娠・出産等を理由とする不利益取扱いが禁止されている旨を解説しました。本稿では,会社が気をつけるべきもう1つのポイントとして,均等法第11条の3により事業主に義務づけられている,マタハラ防止のための雇用管理上の措置に関し,会社が防止すべきとされるマタハラの内容について解説します。
措置義務と指針
平成29年1月に施行された改正均等法により,会社は,自らマタハラとして不利益取扱いをしないよう義務づけられるだけでなく,社員である上司や同僚によるマタハラを防止する措置を講じることも義務づけられました。
具体的には,同法第11条の3第1項に「事業主は,職場において行われるその雇用する女性労働者に対する当該労働者が妊娠したこと,出産したこと・・・・・・に関する言動により当該女性労働者の就業環境が害されることのないよう,当該女性労働者からの相談に応じ,適切に対応するために必要な体制の整備その他の雇用管理上必要な措置を講じなければならない」と定められており,同条第3項により,事業主の措置義務について厚労省が指針を定めるものとされています。この指針により,会社が防止すべきマタハラの内容や,防止のための措置義務の詳細等が示されています。
以下,本稿では,この指針により会社が防止を求められているマタハラの内容を解説します。
この指針によりマタハラの防止のために会社がとるべき具体的な措置については別稿にて解説します。
防止が求められる職場におけるマタハラとは
会社が防止しなければならない,職場におけるマタハラ(妊娠,出産等に関するハラスメント)とは,女性労働者が上司又は同僚から行われる,①産前産後休業その他の妊娠又は出産に関する制度又は措置の利用に関する言動により就業環境が害されるもの(制度等の利用への嫌がらせ型)と,②妊娠したこと,出産したことその他の妊娠又は出産に関する言動により就業環境が害されるもの(状態への嫌がらせ型)の2つのタイプとされています。
なお,「労働者」には,いわゆる正社員だけでなく,パートタイマーや契約社員等の非正規雇用労働者も含むものとされており,派遣社員についても,いわゆる労働者派遣法により,派遣先である会社も派遣社員を雇用する事業主とみなされることから,マタハラ防止のための措置の対象となります。
以下,①,②のマタハラについて,詳しく解説します。
①制度等の利用への嫌がらせ型
次の制度等の利用に関する言動により就業環境が害されるものです。
- 妊娠中及び出産後の健康管理に関する制度(母性健康管理措置)
- 坑内業務の就業制限及び危険有害業務の就業制限
- 産前休業
- 軽易な業務への転換
- 変形労働時間制がとられる場合における法定労働時間を超える労働時間の制限,時間外労働及び休日労働の制限並びに深夜業の制限
- 育児時間
これらの制度の利用に関する嫌がらせの具体的な例として次の言動が挙げられています。
・解雇その他不利益な取扱いを示唆するもの
均等法第9条第3項により事業主が禁止されている不利益取扱いと同じであり,会社として不利益取扱いをしないだけでなく,同じ社員である上司や同僚もこのタイプのマタハラをしないようにしなければなりません。具体的には,女性労働者が,制度等の利用の請求等をしたい旨上司に相談したことや,実際に請求等をしたこと,又は制度を利用したことにより,上司が解雇その他不利益な取扱いを示唆することが典型的な例として挙げられています。
・制度等の利用の請求等又は制度等の利用を阻害するもの
客観的にみて,言動を受けた女性労働者の制度等の利用の請求等又は利用が阻害されるものが該当するとされています。具体的な例としては,
- 制度等の利用の請求をしたい旨上司に相談したところ,これをしないように言うこと
- 制度等の利用の請求等をしたところ,上司が請求等を取り下げるよう言うこと
- 制度等の利用の請求等をしたい旨を同僚に伝えたところ,同僚が繰り返し又は継続的に請求等をしないよう言うこと
- 制度等の利用の請求等をしたところ,同僚が繰り返し又は継続的に取請求等を取り下げるよう言うこと
が挙げられています。
・制度等の利用をしたことにより嫌がらせ等をするもの
客観的にみて,言動を受けた女性労働者の能力の発揮や継続就業に重大な悪影響が生じる等,就業する上で看過できない程度の支障が生じるようなものが該当するとされています。具体的には,女性労働者が制度等の利用をしたことにより,上司又は同僚が繰り返し又は継続的に嫌がらせ的な言動をすることや,業務に従事させない,雑務に従事させることが典型的な例として挙げられています。
②状態嫌がらせ型
次の妊娠又は出産に関する事由に関する言動により就業環境が害されるものです。
- 妊娠したこと
- 出産したこと
- 坑内業務の就業制限若しくは危険有害業務の就業制限の規定により業務に就くことができないこと又はこれらの業務に従事しなかったこと
- 産後の就業制限の規定により就業できず,又は産後休業をしたこと
- 妊娠又は出産に起因する症状(つわり,妊娠悪阻,切迫流産,出産後の回復不全等,妊娠又は出産をしたことに起因して妊産婦に生じる症状)により労務の提供ができないこと若しくはできなかったこと又は労働能率が低下したこと
就業環境が害される具体的な例としては,上記①制度等の利用への嫌がらせ型と同様で,解雇その他不利益な取扱いを示唆するものと,妊娠等したことにより嫌がらせ等をするものが挙げられています。
まとめ
妊娠・出産をする社員の職場環境の維持という観点からは,会社としては,自ら妊娠・出産等を理由とする不利益取扱いというかたちでマタハラをしなければ十分というわけではなく,上司や同僚からもマタハラを受けないようにしなければなりません。この点,以上解説した指針によりどのような行為が防止すべきマタハラになるのか,厚生労働省の指針により明確にされています。
本稿では指針により防止すべきとされているマタハラの内容を解説しましたが,そのために会社としてどのような措置を講ずべきかについては,別稿「マタハラ防止に関する厚生労働省の指針~会社の措置の内容」をお読み下さい。
なお,本稿では,指針の文言で冗長とも思われる部分を思い切って削って読みやすくしておりますので,マタハラ防止のための措置義務を実施する責任者の方等は,オリジナルの指針を参照されることをお勧め致します。