紛争対応・予防の基礎知識

紛争予防

パワハラ等で休職中の社員の対応②~退職の可否

うつ病等のメンタル不調により働けなくなった社員を休職扱いする際の給与の支払いについては,別稿「パワハラ等で休職中の社員の対応①~給与の支払い」で解説しましたが,休職期間を満了しても復帰できない場合,就業規則等の規程どおり直ちに退職扱いとしてもよいのでしょうか。

本稿では,パワハラやセクハラがうつ病等の原因となった可能性があるケースで休職した社員の扱いについて,会社として留意すべき事項を解説します。

休職期間を満了しても復帰できない場合,退職させることはできるか

休職期間満了時の扱い

まずは自社の就業規則等を確認し,休職制度に関する規定に従うのが原則となります。一般に,休職期間満了時点で復職できない場合には解雇とするか,自動的に退職と扱われるとされているのが通常です。

このような規定に従い,うつ病等に罹患した社員が従前の業務に戻れない場合に,直ちに解雇とするか,退職扱いとしてもよいかについて,次の点に注意が必要です。

業務上の疾病に当たる場合

うつ病等のメンタル不調が業務上の疾病に当たる場合には,たとえ休職期間満了時点で回復していなくても,法律上解雇することはできません。労基法上,業務上の疾病による療養のために休業する期間及びその後30日間は,解雇が禁止されているからです。会社の定めた休職期間にかかわらず,療養のための休業が継続する以上,解雇は禁止されるということです。

社員のメンタル不調の原因がパワハラやセクハラであることが明らかな場合には,業務上の疾病として解雇が禁止されることになります。

業務上の疾病に当たらない場合

上記のように業務上の疾病に当たらず解雇が制限されないケースでも,解雇一般に適用される解雇権濫用法理が適用されますので,休職期間満了後の解雇や自動退職扱いは,客観的に合理的な理由を欠き,社会通念上相当であると認められない場合には,無効とされます。

この点,裁判例の蓄積を分析すると,休職期間満了後の解雇又は自動退職扱いをするに際し,会社は,休職していた社員の復職可能性を検討することが求められているようです。復職可能性の判断は,当該社員が従前就いていた業務に復帰できるか,という観点から判断するのが原則となりますが,これができない場合でも,労働者の能力等や企業の規模等の事情から,その労働者を配置する現実的可能性のある他の業務があれば,復職可能性ありと判断されて,休職期間満了時の解雇等が無効となります。また,このような復職可能性を検討せずに解雇等をした場合も同様に無効となるおそれがあります。

このように,うつ病等のメンタル不調が業務上の疾病に当たらない場合であっても,休職期間満了後の解雇や自動退職扱いをするにあたっては慎重に対応するべきでしょう。

労災申請されなければ業務上の疾病でないと扱ってよいか?

うつ病等のメンタル不調については,それが業務に起因するのか,必ずしも明らかではありません。パワハラやセクハラの被害や,長時間労働等の原因が明らかにある場合であっても,私生活上の出来事が原因となっている可能性もあるからです。この点,労災申請をされた場合には,その中で業務上の疾病かどうかの判断が調査されます。そこで,明らかに私生活上の出来事が原因といえるような事情がないのであれば,労災認定の結果が出るまでは,業務上の疾病として扱い,休職期間満了後の解雇等はしないでおくのが無難といえるでしょう。

では,社員が労災申請をしない場合には,業務上の疾病に当たらないと扱ってよいでしょうか。この点,社員がパワハラやセクハラの被害を訴えている場合には,それらのハラスメントに関して行った調査の結果にもよりますが,基本的には,業務上の疾病でないと扱うのはリスキーといえます。解雇等をされたとたん,メンタル不調が業務上の疾病に当たるとの主張により,解雇等の効力を争われる可能性があるからです。また,裁判となった場合には,メンタル不調がパワハラやセクハラを原因としないものと認定されたとしても,上記のとおり,復職可能性を争点とされ,解雇が無効となるおそれもあります。

仮に解雇等が無効と判断され,従業員としての地位が確認されてしまうと,解雇等をしてから,裁判で争っている期間も含めて賃金の支払い義務が生じてしまい,会社にとって莫大な損害となってしまいます。休職期間満了後の解雇等に限らず,社員を退職させる手段として解雇を選択する際には,このリスクを十分に検討し,慎重に対応したいところです。

退職させたい場合には,なるべく合意退職のかたちをとる

そのため,社員を退職させたい場合には,就業規則に規定があるからといって,安易に解雇や自動退職扱いを選択することはせず,合意退職(社員から退職願を提出してもらい,受理する等)の手続をとることをお勧めします。その際,復職可能性の有無について,医師の診断書も提出してもらい,面談を重ねる等して,十分に検討するようにしましょう。復職可能性について会社が親身に検討し,手厚く対応したということで,社員が納得した上で退職の合意に応じることも期待できます。逆に,このような配慮を欠いて安易に解雇等をすることは,社員の反感を買うことにつながり,紛争の火種ともなり得ます。

まとめ

以上のとおり,うつ病等のメンタル不調の原因がセクハラやパワハラ等であり,業務上の疾病に当たるかどうかにより,労基法上解雇が制限されるかどうかという違いが生じます。しかしながら,うつ病等のメンタル不調については,業務上の疾病かどうかの判断が難しいことも多い上,仮に業務上の疾病でない場合でも,解雇が無効となるリスクもありますので,いずれにしても,解雇等により退職させる方法はお勧めしかねます。復職可能性を十分検討しつつ,復職が難しい場合には,可能な限り合意退職の手続をとるようにしましょう。その際は,退職勧奨が違法と評価されないよう配慮したいところです。

なお,本稿はメンタル不調の原因としてセクハラやパワハラの被害を受けたと主張された場合を念頭に置いておりますが,このようなハラスメント以外に,長時間労働等の過労もメンタル不調の大きな原因の一つとなっています。過労が原因のケースでも,休業した社員の扱いについては同様ですので,本稿を参考にしていただければと思います。

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