紛争対応・予防の基礎知識

紛争対応

パワハラ紛争の和解金の相場と考え方のポイント

パワハラやセクハラ等の紛争では,裁判所を通さずに当事者間で交渉して和解で解決できる場合があります。また,裁判になっても,裁判上の和解という形式で合意による紛争解決ができる場合も少なくありません。その際に,最も重要な条件が和解金の金額です。この点で歩み寄りができるのであれば,ほぼ解決ができたといっても過言ではありません。

本稿では,和解での解決を図る際,和解金の金額をどのように検討するか,相場等について解説します。

基本的な考え方

パワハラ等の案件に限らず,およそ紛争を解決するのに支払う和解金・示談金等の金額は,紛争が最後まで進行した場合,つまり裁判所で徹底的に争って判決となった場合にどれくらいの金額を支払うことになりそうか,という見込みが基本となります。その際,①被害者側がどのように損害額を算定して請求してくるか,②その損害額が判決で認められる可能性がどれくらいあるか,③早期解決のメリットをどの程度考慮するか,がポイントになります。つまり,一概にパワハラ案件なのでこれくらい,という大雑把な相場が最初からあるわけではなく,事案に応じて,パワハラ等の行為や被害の程度,証拠の堅さといった事柄を考慮して,概ねこれくらい,というラインが決まり,これがいわゆる相場と呼ばれるのです。

以下,上記の①~③の和解金の相場を検討するための事項について詳述します。

①損害額の算定

パワハラ等の紛争における損害額の算定概ね次のとおりであり,財産的損害,精神的損害,弁護士費用を合算します。

財産的損害

被害者がうつ病等の精神疾患に罹患した場合

  • 治療費・交通費等・・・精神疾患等の治療に要した実費相当額
  • 休業損害・・・精神疾患等が原因で休業した期間の賃金相当額

被害者がハラスメントを原因として退職した場合

  • 退職による逸失利益(再就職までの賃金相当額)

被害者がハラスメントを原因として自殺してしまった場合

  • 死亡による逸失利益(概ね定年までの賃金から生活費,中間利息を控除した額)

精神的損害

いわゆる慰謝料です。判決でどれくらいの金額が認められるかはケースバイケースであり,一概に基準を示すことは困難といわざるを得ません。一般論としては,判決で認められる金額は,被害者本人の感覚からすれば少ないと思われる傾向があり,数万円しか認められないケースも珍しくありませんが,数百万円もの高額賠償が認められる場合もあります。

パワハラ・セクハラ等の事案では,行為が悪質である場合(セクハラ事案であれば,身体接触がある場合),行為が長期間継続したものである場合には,高額な慰謝料が認められる傾向があるようです。

また,被害者が精神疾患に罹患したケース,特に後遺症が生じたケースでは,数百万円単位の慰謝料が認められる可能性があります。さらに,被害者が自殺してしまったケースでは,数千万円単位の高額賠償となることもあります。

弁護士費用

裁判による請求を受けた場合には,上記の損害額合計の1割程度が,弁護士費用として上乗せされる可能性があります。

②損害額が判決で認められる可能性(主張や証拠の堅さ)

パワハラ等の事実に争いがある場合には,裁判所が証拠(当事者や証人に対する尋問で得られた供述も含みます)により事実を認定することになります。パワハラ等の行為の存在を根拠づける客観的な証拠が十分でない場合や,被害者側に生じた被害とパワハラ等の行為との因果関係が疑わしい場合等には,判決で認められる賠償額が減額されたり,請求自体が棄却されたりします。

このような被害者側の主張や証拠の堅さから,判決で認められる賠償金の金額を予測し,会社が支払う和解金の幅が決まります。

③早期解決のメリットを考慮する

裁判で判決まで徹底的に争う場合には,会社側の当事者や担当者にも相当の手間暇がかかる上,弁護士に訴訟手続を委任する場合の費用もかかります。さらに,解決までの期間が長期化したり,公開の法廷で裁判が行われることによる風評被害も懸念されます。これらを回避して早期解決するメリットを考慮して,上記①,②の過程で検討した和解金の幅の中から,譲歩可能な解決金のラインを決めることになります。その際,早期解決のメリットが会社側だけにあるのではなく,被害者側にもあること,当該事案では,どちらにとってそのメリットが大きく働くのかも重要な考慮要素であることに留意したいところです。

まとめ

上記のとおり,和解金の金額の決め方には一定の考え方があるものの,事案により左右される部分が大きく,定額の相場あるわけではありません。また,証拠等を検討して判決の見込みを予測したり,その見込みをどの程度和解金の譲歩に反映させたりするのかは極めて専門的な知識が必要となります。さらに,早期解決のメリットも合わせると,交渉のパワーバランス上,どちらかが優位に立っているのかの見極めも決して容易なことではありません。

そこで,和解による解決を図る場合,特に,請求額が大きく,それに伴い和解金の振れ幅も大きくなりやすいケースでは,交渉の初期段階から,弁護士等の専門家を関与させた方がよいでしょう。

 

 

 

 

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