紛争対応・予防の基礎知識

紛争対応

パワハラやセクハラで訴えられた場合の対応のセオリー

パワハラやセクハラで会社や行為者個人が訴えられた場合,認められる損害賠償額が増額してしまう等,却って不利益な結果を招いてしまう“悪手”としての反論・対応について,別稿「パワハラ等の加害者や会社のNGな反論と対応」にて解説しました。

それでは,会社側としては,訴えられた場合にはどのように対応していくのがよいのでしょうか。

会社がパワハラやセクハラで訴えられた場合,まずは事実・証拠を確認することが先決です。その上で,パワハラやセクハラが認定できる場合か,認定できない場合やできるか微妙な場合かにより方針を立てます。いずれの場合でも和解的な解決を目指すことが多くなりますが,社員側に対し,どのような主張・反論をするかといった対応が場合分けにより大きく異なるため注意が必要です。

以下,パワハラ・セクハラ関連紛争における会社側の反論,対応のセオリーについて解説します。

まずはパワハラやセクハラの事実・証拠を確認する

会社がパワハラやセクハラといったハラスメントの被害者から訴えられた場合,会社側がどのように主張を組み立てて反論するのか,あるいは,事実を認めて謝罪し,早期解決を図るのか,大まかな対応の方針を最初に立てることになります。その際に,まずはパワハラやセクハラとされる事実としてどのようなものがあるのか,それに関する証拠・根拠は何があるのかをしっかりと確認することが重要です。

この点,裁判所に訴えられた場合には,訴訟はもちろん,労働審判の手続であっても,パワハラ等に関する事実の主張は詳細に行われますし,証拠も明らかになっているのが通常です。この場合には,訴状や労働審判申立書に記載された被害者側の主張を元に,パワハラ等に関する事実の有無や立証の程度について検討することになります。

これに対し,弁護士から内容証明郵便が届く等の交渉の段階では,パワハラ等に関する事実が具体的に特定されていなかったり,証拠として何があるのかが必ずしも明らかになっていなかったりする場合もあります。

いずれの場合でも,被害者側の主張や証拠を検討する際には,会社側でも行為者や目撃者等の関係者から事情を聴取し,これと合わせて判断することになりますが,すでに会社が設置した調査委員会等による調査がなされている場合には,その結果を洗い直すことも有効です。

パワハラやセクハラの事実が認定できない場合・できるか微妙な場合

上記のように事実関係や証拠を検討した結果,被害者側が主張するようなパワハラ等の事実が認定できない場合や,認定できるか微妙である場合には,事実関係を争い,被害者からの請求を退ける方針をとるのが基本です。

また,パワハラの類型のうち,「精神的な攻撃」(パワハラの類型については,別稿「パワーハラスメント(パワハラ)とは?定義と類型」をお読み下さい)については,事実関係としては双方の主張に大きな隔たりがなくても,それがパワハラと評価されるかどうかという点で争いになり得ます。このように,事実についての評価が問題となる場合も,パワハラが成立しないという点では被害者側の請求を退ける方針となります。

なお,被害者側の主張する事実のうち一部が認められるような場合には,パワハラ・セクハラ行為の質的・量的な面で,認められる部分については後記の「パワハラやセクハラの事実が認定できる場合」のとおり対応し,認められない部分については上記のような対応をとることになります。

パワハラやセクハラの事実が認定できる場合

被害者側が主張するパワハラ等の事実の全部又は一部が認められる場合,被害者側からの請求を退けることは,ほとんどの場合不可能といわざるを得ません。このような場合に,「同意があった」とか「ハラスメントのつもりではなかった」といった反論をすることにより,却ってマイナスとなってしまうことは別稿「パワハラ等の加害者や会社のNGな反論と対応のとおりです。

そこで,このような場合には,パワハラ等の事実と損害の発生自体は認め,賠償額が先方の主張するような金額となるのか,という点で争う余地がないか検討することになります。被害者が重度のうつ病に罹患したケースや,自殺してしまったケースでは,逸失利益をどのように算定するかにより金額に大きな差が出ることは珍しくなく,また,このようなケースでは慰謝料も多額になるのが通常ですが,その分,争うことで減額できる幅も大きいといえます。

このように,発生した損害額を争う他にも,被害者側に落ち度があった場合や,被害者側の事情による過失相殺を主張し,賠償額を割合的に減額することができないかの検討も必要です。この点については,別稿「被害者側の素因や過失相殺による賠償額減額の主張」に裁判例とともに詳しくまとめていますので,こちらをご一読下さい。

なお,被害者側の落ち度を主張する際には,内容によっては却って慰謝料が増額となってしまうおそれもあるため,主張する内容をより慎重に吟味すべきであることに注意が必要です。

手続面を考慮した対応

上記のように,パワハラやセクハラが認定できない場合や,できるか微妙な場合には,訴訟や労働審判といった法的手続に発展する前の交渉段階で和解ができる場合が少なくありません。被害者側としても,時間や費用のかかる法的手続をとった結果,賠償請求が認められないというリスクを負うのは避けたいという動機付けが働くからです。他方,会社側としても,法的手続に対応するにはさらに多くの弁護士費用がかかる上,公開の手続である訴訟を起こされると,風評の問題も懸念されるため,事案に応じて,早期解決のメリットが,被害者に支払う解決金の額に見合うのであれば,和解による解決を積極的に検討すべきといえます。

ただし,パワハラやセクハラが認定できないケースでは,これを認めることを前提とした和解により,加害者だけでなく,他の社員の士気を下げることにもなりかねません。つまり,上記のような早期解決のメリットと解決金の額に加え,社員の士気への影響という問題も考慮して,和解か,訴訟になっても徹底的に闘うかという対応の方針を決定することになります。

まとめ

以上のとおり,パワハラやセクハラで訴えられた場合には,まず,パワハラ等の行為が認められるかどうかをよく検討することが出発点となります。その結果により,どの争点で争うか,解決方針として和解を目指すのか,裁判で徹底的に争うかという対応の方針を決定することになります。

特に,会社側として対応を誤ると,慰謝料増額という不利益を被るおそれもありますので,押すべきとことは押す,引くべきところは引く,という見極めが大変重要となります。しかしながら,この判断は極めて難しいため,専門家である弁護士を関与させることを強くお勧めします。

 

 

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