紛争対応・予防の基礎知識

紛争対応

ハラスメント紛争対応の流れその3~裁判

パワハラやセクハラの被害者から損害賠償を受けた場合の紛争対応のうち,別稿「ハラスメント紛争対応の流れその1~示談」では,裁判所を使わない解決方法として,示談交渉の手順とスケジュールについて解説しました。また,裁判所を使う手続のうち,労働審判については,別稿「ハラスメント紛争対応の流れその2~労働審判」で手順や流れについて詳しく解説しています。

本稿では,パワハラ等の紛争対応のうち,裁判(訴訟)という手続について,手順の流れとスケジュールを解説します。

なお,以下の裁判の手順の流れは,労働審判を先行させずに訴訟を提起した場合についてのものです。労働審判が先行して訴訟に移行した場合は,改めて訴状が送達されることはありません。この場合,労働審判の経過が引き継がれますので,スケジュールも以下の目安より短くなるのが通常です。

裁判(訴訟)の流れとスケジュール

①訴状が送達される

裁判所から訴状が届きます。

最初の裁判の期日は,訴状に同封されている口頭弁論期日呼出状に記載されていますが,概ね訴状送達後の1か月程先に指定されています。この期日には,同封されている答弁書の書式を使うなどして答弁書を提出しておけば,欠席しても問題ありません。答弁書を提出せずに,出席もしないと欠席判決で請求が全額認められてしまいますので,答弁書の提出は余裕をもって確実にしましょう。答弁書には,具体的な反論を記載する必要はなく,訴状の「請求の趣旨」に対する答弁として,「原告の請求を棄却する」との裁判を求める旨,訴状の「請求の原因」に対する認否として,「追って認否する」旨記載しておけば足ります(俗に「三行答弁書」といいます)。

パワハラやセクハラ等の行為について,事前に事実の調査等が行われ,証拠も整理されている場合には,第1回期日までに実質的な内容を記載して証拠も提出することで解決までの時間を短縮できますが,訴訟手続を弁護士に依頼する方針で,その弁護士が当該ハラスメント事案の調査等に関わっていない場合には,第1回期日は上記のような三行答弁書を提出しておき,第2回期日までに弁護士とよく相談して反論を準備するとよいでしょう。

②第2回期日以降(①から2,3か月後)

第2回期日には,訴状の内容に対する認否・反論を記載した準備書面を予め提出した上出席する必要があります。その後,数回(10回を超えるケースもまれではありません)にわたり重ねられる期日では,準備書面や証拠といった書類を双方が提出し合い,主張と証拠の整理が行われます。

第2回期日は法廷で行われますが,その次の期日からは弁論準備という手続となり,法廷ではなく,傍聴席がなく,比較的小さな部屋で裁判官と双方の当事者のみで手続が進められるのが通常です。

なお,昨今の新型コロナウィルスの影響により,上記の弁論準備手続に代わり,Web会議で争点整理が行われるケースも増えています。

③和解勧試(②から半年~1年後)

双方の主張と証拠があらかた出尽くすと,次は証人や当事者を尋問する手続になりますが,その前に,これまで提出された書面や証拠からみて裁判所が一定の心証(判決となった場合にどれくらい請求が認められそうか)を当事者に開示した上で,和解による解決ができないか打診されることがよくあります(これを「和解勧試」といいます)。

この時点で,裁判所の心証を考慮に入れて,双方の歩み寄りができれば,裁判上の和解が成立し,訴訟は終了します。

④証人尋問・当事者尋問(③から1~2か月後)

③で和解ができなかった場合には,証人や当事者を尋問する手続となります。この手続は,再び傍聴席のある法廷に戻り,公開で行われます。ただし,セクハラの被害者である当事者に尋問する場合等に,当事者や傍聴人との間に衝立(ついたて)を設置する等の遮へい措置がとられることもあります。

パワハラやセクハラのケースでの証人尋問については,別稿「ハラスメント関連の裁判で尋問手続に呼ばれたら」にて詳しく解説しております。

⑤尋問後の和解勧試(④の直後)

証人尋問・当事者尋問の後で,尋問の内容を考慮した上,改めて裁判所が心証を開示し,和解を勧められることがあります。当事者尋問のため当事者も裁判所に来ておりますので,裁判官が直接当事者と話をすることができ,和解に消極的であった当事者が説得されることもあります。

パワハラやセクハラの程度がひどく,被害感情が大きい場合でも,尋問により自分の言い分を十分に主張できたと感じ,さらに,判決を書く裁判官から見通しを示されることで,判決を求める方針から一転して和解による解決となるケースも少なくありません。

⑥判決(④,⑤から1~2か月後)

尋問後,和解勧試がされないか,されても歩み寄りができなかった場合には,弁論が終結となり,次の期日で判決言渡しとなります。

まとめ

以上がパワハラ・セクハラ等の紛争対応のうち,裁判(訴訟)についての手順の流れですが,スケジュールは事案によって前後することもあり得ますので,おおよその期間としてご了解いただければと思います。

訴訟の手続は地方裁判所で行われる第一審のみ解説しておりますが,いずれかの当事者が判決に不服である場合には,控訴,上告と上級審で審理されることになります。訴訟は,第一審だけでもかなり長期間かかり,弁護士に依頼した場合でも,会社側の担当者が投入する労力は相当なものになるのが通常です。このような訴訟にかかる労力や時間も,示談で解決するかどうかの判断材料として大きな要素となります。

 

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